『ヘアスプレー』のオリジナルは、1987年に奇才ジョン・ウォーターズが監督した同名カルトコメディ映画。2002年にブロードウェイでミュージカル化され大ヒット、2007年夏には来日公演も行われ、現在もロングラン上演を続けている。今回新たに再映画化するにあたっては、最高のスタッフとキャストが集結した。製作は、アカデミー賞受賞作『シカゴ』(02)で製作総指揮を務めたクレイグ・ゼイダンとニール・メロン。メガホンを取ったアダム・シャンクマンは、ダンサー、振付家の顔も持っており、映画版『ヘアスプレー』の監督はまさに適任。オリジナル映画のコメディ要素とブロードウェイ・ミュージカルのエネルギーが見事に融合した極上のエンタテインメントに仕上がっている。キャストも適役揃いだ。おデブな自分を恥じることなく、正直に健気に前向きに生きるトレーシーをはちきれんばかりに表現するニッキー・ブロンスキーは、1000人のオーディションで選ばれた文字通りのシンデレラガール。娘を心配しつつも優しく見守るクィーンサイズなママ、エドナに扮するジョン・トラヴォルタは特殊メイクで大変身し、13kgの肉じゅばんを身にまといながら軽やかなステップを披露。エドナは男性俳優が演じるのが代々お決まりなのだとか。妻と娘をこよなく愛するウィルバーは、意外にもミュージカル経験豊富な個性派クリストファー・ウォーケンが飄々と好演。性悪美女のベルマ役には、49歳にしてスタイル抜群のミシェル・ファイファー。ショーの「ブラック・デー」のホスト、メイベル役にはソウルフルな歌唱力が圧巻のクイーン・ラティファ。ベテラン陣と競演する若手俳優たちも好感度満点だ。リンク役のザック・エフロンは、エミー賞受賞のTV映画『ハイスクール・ミュージカル』で大ブレイクし、1984年の青春映画『フットルース』のリメイク版主演が控える注目株である。 『ヘアスプレー』の舞台となっている60年代はアメリカの変革の時代。人種差別を抗議するムーブメントが盛り上がり、着実に人々の意識が変わっていく様が、晴れやかに描かれる。人種や外見への偏見を、揺るぎない家族愛や友情、圧力に屈しない勇気、さらに音楽とダンスのパワーで一蹴!これが実に小気味よい。全編を通じて繰り広げられるエキサイティングなミュージカル・シーンには、思わず一緒に踊り出したくなるような高揚感に包まれるだろう。また、ヘアスプレーで固めた華やかなヘアスタイルやカラフルなドレスといった60年代ファッションが目にも楽しい。ポップでハートウォーミング、愉快で爽快。本作は、老若男女を問わず気分を元気満タンにしてくれる、ハッピーテイストをギュッと凝縮した最高に素敵なエンタテインメントだ。エンドロールを観終わったら、拍手喝采を送りたくなるに違いない!