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FEATURE
誰もが一度は耳にしたことがある……、いや、誰もが何度も耳にしたことがある、と形容したほうが多くの人に当てはまるのではないだろうか。ドラマ、映画、ドキュメンタリー、CMなど、さまざまなシーンに楽曲を提供し、絶妙なムードアップで人々の心を揺さぶってきた勝木ゆかりと深浦昭彦によるインストゥルメンタル・ユニット、S.E.N.S.(センス)。
そのキャリアは1988年にNHK特集「海のシルクロード」の音楽を手掛け、同番組のサウンドトラック『海神』でデビューしたところから始まった。翌1989年にはS.E.N.S.が音楽を手掛けた映画「悲情城市」がベネチア国際映画祭グランプリ受賞。90年代前半には、「振り返れば奴がいる」、「あすなろ白書」など、S.E.N.S.が音楽を手掛けたドラマが次々と大ヒットを記録した。以降も、サウンドトラックを中心に数多くの作品を手掛け、2001年には既発曲の中からクラシック色の強い14曲を収録し、ヒーリング・ベスト・アルバムとしてリリースされた『透明な音楽』が2度目となる日本ゴールドディスク大賞を受賞。インスト作品としては異例となる20万枚以上のセールスを記録した。また、言葉の壁が無いS.E.N.S.の音楽は海外でも高い評価を受け、現在はヨーロッパ、アジア諸国でもアルバムがリリースされるなど、この分野において圧倒的なキャリアを確立している。
改めて振り返るとあまりにキャリアがすごすぎて前置きが長くなってしまったが、現在S.E.N.S.は、デビュー20周年を記念して、これまでに発表された38枚のアルバム、300曲を越える楽曲の中から、アーティスト名でもあるS.E.N.S.(Sound~響、Earth~地球、Nature~自然、Spirit~魂)をテーマとしたベスト・セレクション・アルバム4部作を、2009年5月まで続く3年越しのプロジェクトで発表中。昨年11月の第1弾『Sound.Earth.Nature.Spirit.
vol.SOUND』に続き、5月21日に第2弾となる『Sound.Earth.Nature.Spirit. vol.EARTH』をリリースした。
“EARTH~地球”をテーマにセレクトされた今作は、デビュー作「海神」から、現在絶賛放送中のフジテレビ系ドラマ「ラスト・フレンズ」挿入曲「記憶の森」まで、新旧の作品の中から全15曲を収録。青い海、緑の大地、色とりどりの花など、美しい景色を想起させてくれる「Wish」で幕を開けると、地球の脈動を音にしたかのような力強い生命力を感じる「陽光」が満ち溢れるほどにエネルギーを注入。のどかな風景の中で微かに揺れる水滴のような「月の石と、地球の水」、穏やかなピアノとやさしいストリングスが清流のようなメロディーを奏でる「Peace」が安らぎを与え、神秘的な深海から太陽の光を浴びる海面へと昇っていくような「海神」、地球の生態系のごとくダイナミックかつ繊細な「Olympus」が壮大なロマンティシズムを感じさせる。7曲目の「Edge
of the Storm」は、一転して地球の持つ厳しさ、無情さに焦点を当てたような楽曲。「Lunar Dream」は暖かい風が体を包み込むようにやさしく響き、「輝く季節の中で」は一輪の花が芽を出し、咲いて、枯れるまでを1曲にしたようなドラマティックなストーリーを持つ。「Refrain」は雪の中から顔を出すフキノトウのようにたくましく、悲しげな音色の中にも強い決意を感じさせるピアノ曲。一連の流れで聴かせる「Asian
Blue」と「Tin Field」は、目の前に壮大なパノラマが広がるようなサウンドとエスニックな音使いが印象的で、躍動するリズムと冒険的なメロディーが高揚を煽る。やわらかく美しいギターが恵み豊かな景色を映し出す「Rainbow
on the Moon」、森に入ったときの心地良い匂いが伝わってくる「記憶の森」ではマイナスイオンも全開。ラストは満天の星空に始まり、輝かしい夜明けを迎えるような「Love
Song for You」で締めくくる。
きっと人それぞれで感じ方は違うだろうし、筆者が感じたことはS.E.N.S.本人の意図とは異なるものも多いだろう。しかし、これだけの景色や感情を浮かばせてしまうS.E.N.S.の音楽が、人の心を動かす=感動を与えてくれるものであることは間違いない。もし機会があれば、S.E.N.S.の2人に各楽曲が生まれたエピソードを訊いてみたいものだが、あえてタイトルを見ないで、自由に景色を思い浮かべながら聴くのも一興かもしれない。ヒーリング・ミュージックとしてBGM的に楽しむこともできるが、これほどまでに想像力を刺激する作品もそうは出会えないからだ。歌詞のない音楽だからこそ、固定観念に囚われることなく広がる世界。“EARTH~地球”をテーマにした本作で言えば、この70分強の時間で世界旅行をしたかと思うほど、さまざまな地球を感じることができるだろう。
今年11月には『vol.NATURE』を、そして来年5月には完結作となる『vol.SPIRIT』をリリース予定の彼ら。この4部作を単純にS.E.N.S.の20年間の記録として受け止めることもできるが、もしもこの先、地球の環境や人々の感情が大きく変わってしまったとしたら……。この4部作は、美しい地球が、健全な人々の心が、こんなにも豊かな音楽を生み出すというひとつの証でもある。話が飛躍してしまったかもしれないが、そういう意味でも、S.E.N.S.の音楽は未来に残していくべき財産であると思う。
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Text:タナカヒロシ |
RELEASE |
S.E.N.S.
『Sound.Earth.Nature.Spirit. vol.EARTH』
BVCR-11119 ¥3,059(税込)
BMG JAPAN 発売中
01. Wish(ドラマ「神様、もう少しだけ」メインテーマ/1998年OA)
02. 陽光
03. 月の石と、地球の水
04. Peace
05. 海神(NHK特集「海のシルクロード」メインテーマ/1988年OA)
06. Olympus(NHK特集「海のシルクロード」挿入曲/1988年OA)
07. Edge of the Storm(NHKスペシャル「故宮」挿入曲/1996年OA)
08. Lunar Dream(ドラマ「P.S.元気です、俊平」挿入曲/1999年OA)
09. 輝く季節の中で(ドラマ「輝く季節の中で」メインテーマ/1995年OA)
10. Refrain(映画「いちげんさん」メインテーマ/2000年公開)
11. Asian Blue(TBS「日本海大紀行」メインテーマ/1995年OA)
12. Tin Field(TBS「日本海大紀行」挿入曲/1995年OA)
13. Rainbow on the Moon
14. 記憶の森(ドラマ「ラスト・フレンズ」挿入曲/2008年OA)※新曲
15. Love Song for You(NHKスペシャル「Our Beautiful Planet」メインテーマ/1990年OA)
20周年記念ベストアルバム4部作 第1弾 S.E.N.S.
『Sound.Earth.Nature.Spirit. vol.SOUND』
BVCR-11111 ¥3,059(税込)
BMG JAPAN 発売中
“SOUND~響”をテーマとした4部作の第1弾。日中合作映画「鳳凰 わが愛」メインテーマの「Crossing Over」(新曲)をはじめ、NHK韓国ドラマ「美しき日々」挿入歌「Remembering
Me」、NHKスペシャル「故宮」「海のシルクロード」、ドラマ「青い鳥」のメインテーマなど代表曲15曲を収録。
公式サイト
⇒http://www.sens-company.com |
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