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アイリッシュ・フォークをはじめとしたトラッドな音楽性とエレクトロな要素を融合させ、伝統的でありながら先鋭的な作品が高い評価を受けてきたシンガー・ソングライター、Akeboshi。その彼が、2002年のインディーズ・デビュー以来、意外にも初となるオリジナル・フル・アルバム『Meet
Along the Way』を完成させた。本作は、そのタイトル通り、イギリス〜アイルランドを旅した彼が、現地で出会ったミュージシャンたちに奏でてもらった音をレコーディング。“人との出会い”をテーマに作り上げた、温もりに溢れた作品だ。
「現場で一緒に“そのフレーズいいね”って言いながら作っていくのって、やっぱり全然違くて。今はテクノロジーがすごい進化して、データのやり取りだけでも作れないことはないんだけど、顔を合わせて一緒に作り上げていったもののほうが、やっぱり人間味があるっていうか。自分の意見もちゃんとコントロールできるし、お互いの意見をぶつけて偶然が起きたりするのがいいなって」
その言葉通り、本作は近年のどの作品にも見当たらない独特のあたたかい空気に満ちている。実際のレコーディングはパブの2階を借用したり、ユースホステルの部屋の中で行われたというが、本作から流れる芳醇なサウンドを聴いていると、一流のスタジオで、一流のミュージシャンたちを使って制作された作品が、必ずしも最高の作品ではないということを思い知らされる。木造の家に入ったときのほっとする感じとでも言えばいいだろうか。そこには、本来人間が欲しているであろう安心感が存在しているのである。
そういった経緯も踏まえてか、本作はラストの「フクロウ(Owl)」を除いて、すべて英語詞で綴られている。しかし興味深いのは、彼のいつもの制作方法とは反対に、日本語から詞を作り上げている曲が多い点だ。
「いつもは英語で音の響きとかを優先しながら作ることが多かったんだけど、今回は日本語でちゃんとオチがある歌詞になるように意識して。参加してくれた人とか、向こうで泊めてくれた人とか、誰が聴いても、どんな国籍の人が聴いても、ちゃんとキレイに聴こえるように。逆に英語がわからない人に対しても、音でちゃんと反応できるようにとか。その辺は一番大変だった」
その中でも「音でちゃんと反応できるように」という言葉に彼のミュージシャンとしてのこだわりが見える。
「(詞の中に)メッセージは常にあるんだけど、一番最初に音楽が来ないとダメだと思っていて。メッセージが切り口で聴いて欲しくない。そこは曲の中で聴き手が汲み取ってくれるのが一番望ましいことなのかなって」
しかしながら、大切な人に語りかけるように、丁寧に歌われた言葉の数々は、たとえ英語であっても、必ずや聴く者の心にあたたかい何かを残してくれるだろう。“人との出会い”をテーマに、総勢20人以上のミュージシャンによって作り上げられた本作が、機械を通してのコミュニケーションが主流となった現代に与える意味は、決して小さくない。 |
Interview & Text:タナカヒロシ |
RELEASE |
『Meet
Along the Way』
◆初回限定盤(2CD)
ESCL 3021-3022 ¥3,360(税込)
◆通常盤
ESCL 3033 ¥3,059(税込)
Epic Records Japan 11月7日発売
⇒http://www.akeboshi.com
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