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音楽がなかったらどうなってんねやろっていうのは思いますね |
INTERVIEW |
1年ぶりとなるアルバム『アイヲシル』をリリースする広沢タダシ。何気なしに作った曲となんとなく歌った歌が、今では大切でかけがえのない存在。まるで呼吸をするようにその想いを歌い、自身の気持ちを浄化させてゆく。それは彼にとってごくごく自然な行為。痛みと孤独と悲しみと真正面から向き合い、しっかり受け止め前へ進もうとする全12曲は、やさしい風のようにたくさんの人の背中をそっと押してくれるであろう。
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■1年ぶりのアルバムができあがっていかがですか?
広沢タダシ:1年っていうのはあっという間ですよね。待ってる人からすると“1年ぶりかい”みたいな感じやけど、作るほうからしたらけっこうすぐでね。すごく充実してたし集中できたアルバムなんで、自分の中で爽快な感じがありますね。
■こういうアルバムを作りたいとか、思い描いてたことってありますか?
広沢:ないです(笑)。曲を書いていって、今自分が何を考えてるのかとか、自分が重きを置いてることはなんなのかとか、自分の心の奥深いところにあるものが、何曲も書いていくと見えてきたりして。途中でいつも“これや”って見える瞬間があって。今回もそれですね。
■そういった中で、今回はどんなアルバムになったと思います?
広沢:切ないこととか悲しいこととか、孤独であったり、そういうものを歌いたいなと。生きてると絶対ついてくるやないですか。そういう事実をちゃんと受け止めるアルバムにしたいなと思ってたんですね。そういうことがあっても前に進もう、それでも生きていくっていうのが今回のテーマ。理由なく“がんばれよ”って言ってもダメじゃないですか。がんばる手前にちゃんと受け入れるものを受け入れなければ先に進めなくて。例えば、夢を持っていてそれに破れた。辛いし落ち込むねんけど、辛いと感じてるってことは夢とちゃんと向き合ってた証拠で、それってなんかいいなと思って。失恋もそうやし。それにもやっぱり意味があるっていう。しんどいことあっても立ち止まらずに前に進んでいくことやしね。
■広沢さんが曲を作る点でのテーマってなんでしょう。
広沢:やっぱり生きることですね。曲を書く、歌を歌うことは僕にとってすごい助けになってて救われてる部分がある。人間食べたら出すでしょ、溜めたまんまやとしんどくて。音楽も一緒。いろんな思いを抱えたらちゃんと出していく。例えば、ブルースってすごい悲しいことを悲しいって歌って終わるんですよ。でも、歌うだけで、すごい浄化されてちょっとラクになったりして。僕にとって音楽はそういう効果もある。だから生きることですね。
■小さい頃、ピアノをやってて挫折されたそうですけど(笑)。
広沢:(笑)。楽しいと思った瞬間が一度もない。やっと辞めれたって感じですよ。小学生やからサッカーとかしたいでしょ。毎日ピアノの前に座って間違えたら叩かれたりして。もう意味がわからん。8歳ぐらいになって“もう、やらん”と。で、辞めました。
■そこからギターをやられたということですけど。
広沢:父親がギタリストで、身近にずっとあった楽器やったんですけど触ったことはなくて。高校のときに暇で、勉強もせえへん部活もせえへん、特に遊ぶこともないしね(笑)。歌本とか買ってきて流行り歌を弾いたりして、そんとき初めて楽器が楽しいと思って、それから続けてますね。
■そこから歌を始めるきっかけになったのは?
広沢:あのね、ギターはあくまでも趣味で暇つぶしやったんですね。自分が人前で歌う人間になるなんて思ったこともなかったし。20歳のときにオリジナル曲を1回書いたんですよ。学校の授業で“書け”って言われて。そしたらけっこうすんなりできて、そこで人生変わりましたね。ゼロから自分の作品が生まれる感じ、すごい充実感みたいなもんがあって、これは自分に合ってるかもしれんと。それと同時に歌い始めたんですよ。
■自分には歌うことしかないと感じた瞬間とかあると思うんですけど。
広沢:歌い始めた頃はなんでもできると思ったんですね。けっこう器用なほうやと思うし、別に音楽がなくても生きていけると思ってた時期があって。今はちゃいますね。それは、もうさっきも言った、音楽に救われてる部分がすごいあるから。音楽がなかったらどうなってんねやろっていうのは思いますね。
■なるほど。アルバムのお話に戻って、『アイヲシル』っていうタイトルに込めた想いは?
広沢:愛って究極じゃないですか。みんなが目指すゴールみたいな感じで、それを手に入れたらすべてが上手くいくみたいな。でも実は、手に入れたら手に入れたで、もっとしんどいことがあったりするんですよね。見たくないものまで見てしまったり。このアルバムのテーマとして、愛を手に入れたときに、それがゴールじゃなくて、そっからまた新たなドラマの始まりなんじゃないかなって。そっから先に進んでいきたいなって。
■このアルバムでリスナーにいちばん伝えたかったことってなんですか?
広沢:上手くいかないことはたくさんある。でもそれには意味があるっていうことですね。それがあるからいろんなものが見えてくる。自分が傷つかないと人の痛みもわからないようにね。そういうことをちゃんと抱えて、でも生きていくっていう、だからこそ生きていけるというかね。現実を受け止めることで、より強くなれると思うんですよ。着実に歩める気がするんですね。 |
-Interview & Text:藤坂綾 - |
DISC
INFORMATION |
広沢タダシ 『アイヲシル』
NFCD-27042 \3,059(税込)
Atomic Monster Records 発売中
01. アイヲシル
02. パーフェクト
03. 夢の中で君が泣いてた
04. 遠い記憶
05. 夢色バス
06. ハダカ
07. さよならなんて
08. 悲しくないのに
09. 虹のつづき
10. とびらをたたけ
11. 桜の絨毯に乗って
12. それを愛という |
PROFILE |
4歳からピアノを習い始めるが8歳で自我と反抗心が芽生え断念。クラシック・ギター・ミュージシャンでもある父親の影響もあり、17歳からギターを始める。20歳でオリジナル曲を作り、同時に地元大阪でライブ活動をスタート。インディーズでの好評を経て2001年7月に『手のなるほうへ』でメジャー・デビュー。作家としても多くのアーティストに作品を提供する美しいメロディーとやさしくも力強い歌詞は、聴く者を選ばず、心を捉えて離さない。溢れ出る才能と個性的なヴォーカルは心に染み渡り、“本当のうた”を感じさせる。
OFFICIAL SITE⇒http://www.hirosawatadashi.com |
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